お餅の知識を深める年末年始〜日本の伝統食「お餅」の魅力を再発見〜

年末から年始にかけて、食べる機会がグンと増えるお餅。季節を問わず、美味しくいただける食品ですが、日本ではお正月に鏡餅を飾る風習もあり、冬の味覚、お正月に食べるものというイメージがあるかもしれません。では、なぜ、お正月が近くなると途端に「お餅」が主役に躍り出るのでしょう? この年末年始、お餅についてちょっと知識を深めてみませんか。今回は、さまざまな角度からお餅についてお話しします。

古来より神聖視されてきたお餅 <お餅の歴史編>

まずは、お餅の歴史について見ていきましょう。

そもそも、日本人にとってお餅はどんな存在?

古来より、お米は日本人にとって大切な穀物であり、神聖なものとして扱われてきました。そのお米から作られるお餅も、特別なものとして扱われます。

日本人とお米の関係を語る上で外せないのが、『古事記』『日本書紀』に記されている「天孫降臨(てんそんこうりん)神話」です。この神話には、皇室の御先祖が高天原(たかまがはら ※1)から下界へ降りて、国を豊かに平和に治めていく様子が描かれていますが、その中でも有名な一場面を簡単に要約すると、

「天照大神は、下界に降りる瓊瓊杵尊(ににぎのみこと ※2)に稲穂を授け、人々が飢えることがないよう地上で稲を育てることを託した。」とあります。

地上に降り立った瓊瓊杵尊は天照大神の言葉にしたがい、土地を耕し、稲を作ります。これが、日本の稲作の始まりです。私たちの祖先は、天孫降臨神話によって稲作の起源を語り継いできました。お米は、まさに神様からの贈り物。今なお、神社祭祀の中心にあり、特別な存在なのです。

お米ができるまでの長い道のりも、自然と畏敬の念を抱かせるのかもしれません。1年で1度だけ採れるお米と、1年で1つ歳をとる私たち。お米のサイクルに自らを重ね合わせ、お米を魂の象徴と見る考え方が日本人の心には深く根付いているといわれています。と同時に、稲には人間の生命力を強化する霊力がある(=稲魂)とも考えられてきました。その霊力はお米にも宿り、さらにお米を醸して造るお酒や搗き固めたお餅には、より強い霊力が宿っていると考えられています。お餅は、稲やお米、お酒とともに、古の時代から特別な存在であり続けているのです。

※1 高天原:神々が住まう世界
※2 瓊瓊杵尊:天照大神の孫で皇室の祖とされる神様

お餅を食べるようになったのはいつ頃のこと?

日本でお餅が食べられるようになった年代は明らかになっていませんが、文献に「もち」という言葉が初めて登場するのは、奈良時代に編纂された『風土記』です。『豊後国風土記』にはこんな話が載っています。

「明け方、北の方から白い鳥が飛んできて「もち」になった。しばらくすると、それはサトイモ数千株に変わり、冬だというのに青々と茂った。そこから、サトイモを「豊草」、国の名を「豊国」とした。」

一方、こんな話も——。

「速水群田野の地は、土地がたいへん肥えており、稲は畝に捨てておくほど豊かに実った。驕り高ぶった人々が「もち」を弓矢の的に使ったところ、「もち」はたちまち白い鳥になって南の方へ飛び去ってしまった。そして、その年のうちに農民は死に絶え、水田は荒れ果ててしまった。」

「白い鳥」というのは、稲に宿る精霊(=稲魂)と考えられており、その尊い稲や「もち」を粗末にしたために、稲魂が去ってしまったというメッセージがこの物語には込められているのではないかと解釈されています。

お正月に鏡餅をお供えする理由とは?

なぜお正月に鏡餅をお供えするのかというと、鏡餅は歳神様の依り代(よりしろ)とされているから

歳神様とは、元旦になると各家庭を訪れて、1年の幸せをもたらしてくれるありがたい神様のことです。依り代とは、神様が宿る場所。つまり、鏡餅は歳神様の訪問先での居場所なのです。

では、歳神様はいつまで各家庭に滞在されるのか? 地域によって異なりますが、一般的には1月11日の「鏡開き」の日まで滞在されるとされています。鏡開きは、お供えしていた鏡餅をお下がりとしていただく儀式ですが、鏡餅を開くことで歳神様をお送りしてお正月に一区切りつける、すなわちその年の仕事始めをするという意味もあるのです。今年はそんな意味も考えながら、歳神様の力が宿る鏡餅をいただいてみませんか。

鏡餅の由来

ところで、どうして鏡餅と呼ばれるのかはご存知でしょうか? 由来は諸説ありますが、有力なのは「昔の鏡」に由来するという説です。「三種の神器」の一つとしても知られる鏡(=銅鏡)は、神様が宿る神聖なもの。その銅鏡に見立てて、歳神様の依り代となる丸いお餅を鏡餅と呼ぶようになったと考えられています。

餅つきを避けた方がいい日、餅つきに最適な日

年末の風物詩である餅つきですが、その日は避けた方がいいといわれている日があります。それが、12月29日と、12月30日の2日です。その理由は、以下のとおり。

  • 12月29日
    「九=苦」という数字が入っているため、縁起が悪い日とされています。ですが、「二九=福」と読んで、縁起がいいとされている地域も。これは地域や各人の捉え方次第かもしれません。
  • 12月31日
    大晦日がNGなのは、歳神様を迎える準備を一夜で慌ただしく行うのはよくないという理由から。また、一夜ではお餅がちゃんと固まらず、鏡餅が潰れてしまう恐れがあるため縁起がよくないという理由もあるようです。ちなみに、お正月飾りなどを大晦日に飾る「一夜飾り」もよくないとされています。

上記の日とは反対に、餅つきに最適といわれている日が12月28日。お察しのとおり、「八=末広がり」というのがその理由です。

お餅ってそうだったの!? <お餅の雑学編>

ここでは、おもしろい、お餅のトリビアを見ていきましょう。

お餅は日本だけのものじゃない⁉

お餅は、日本ならではの食材と思われがちですが、実はラオスやベトナム、タイ、中国などの一部地域でも食べられています。たとえば、ベトナムの「バインザイ」。味も形も日本のお餅とよく似ていますが(関西で見られる丸型)、調理の仕方と食べ方がずいぶん違います。ベトナムではバインザイを茹でるのだそう。その茹でたお餅にハムを挟んで食べるのが一般的といわれていますから、なるほど所変わればです。

スポーツに欠かせないお餅

スポーツ選手が試合前にお餅を食べるという話を聞いたことはありませんか? お餅は、スポーツ選手におすすめの食材といわれています。というのも、お餅には運動中の主なエネルギー源となる糖質(炭水化物)が豊富に含まれているからです。しかも、体の中でゆっくり消化吸収され、ゆっくりエネルギー源に代わるタイプの糖質。なので、試合の日の朝ごはん、ハードな練習をした日のお昼ごはんや夜ごはんに向いているといわれています。また、お餅はご飯よりも水分量が少ないため、同じ量でもより炭水化物を多く摂取できることも大きなメリット。スポーツを楽しむときには、食事にお餅を取り入れてみてはいかがでしょうか。

お餅を手軽に食べるには? レンジでの加熱方法

お餅を加熱するときに便利なのが、電子レンジです。オーブントースターなどで焼くよりも時短になるのが◎。基本の加熱方法を紹介します。

<切り餅2個分(100g)の加熱方法> ※1個の重さを50gとしています。

  1. 耐熱容器に切り餅を2個並べる
  2. お餅がかぶるくらいの水を入れる
  3. ラップをせずに、600W1分〜1分30秒ほど加熱
  4. 水気を切る

お餅の奥深さを再認識して、ありがたくいただきましょう

お餅を食べる機会が増える年末年始。お正月には、寺社仏閣をはじめ各家庭や商業施設などでも鏡餅を飾ります。そんな光景が当たり前になっているからか、なぜその時期にお餅が重用されるんだろう?と考えてみることはあまりないかもしれません。改めてお餅という食材に向き合ってみると、日本人にとっては特別な食べ物であることがわかります。古来より存在していたお餅が、現代まで脈々と受け継がれてきたことに想いを馳せながら、年末年始はお餅をじっくり味わってみませんか。

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