清少納言も食べていた!?〜かき氷の深い歴史と知恵に浸る夏〜
2024年夏も猛暑が続き、かき氷がひときわ恋しくなる季節になりました。近年、目覚ましい進化を遂げるかき氷は、もはやスイーツの域を超え、食事系と呼ばれるジャンルにまで到達しています。この先の進化も気になるところですが、そもそもかき氷はいつの時代から食べられるようになったのでしょうか。
実は、かき氷には想像以上に長い歴史があります。夏真っ盛り、かき氷が来た道をたどってみませんか? 暑い夏を乗り切るためのかき氷活用術も紹介します。
かき氷が来た道 〜悠久の歴史をたどる〜
そもそも、かき氷はいつ、どこで誕生したのでしょうか? まずはそこから見ていきましょう。
紀元前に存在していた氷菓子
かき氷は日本発祥という説もありますが、それよりもはるか昔に、嗜好品として氷を楽しんでいた記録が世界各地に残されています。
たとえば、古代ギリシャ・ローマでは、戦いの際に兵士の士気を上げるために、甘みをつけた氷や雪がふるまわれていたのだそう。ただ、当初は「お菓子」としてではなく、疲れた体を癒すための「健康食品」のような位置付けだったといいます。とはいえ、果汁や蜜などで甘くした氷や雪は、名だたる英雄たちをも虜にし、嗜好品としての地位を確立するのは時間の問題だったようです。
ギリシャからエジプト、中東、インドの一部にまで及ぶ大帝国を築いたアレクサンドロス大王(アレクサンダー大王)も氷菓子の虜になったひとりで、氷や雪にハチミツ、果汁などをかけたものを好んで食したと伝えられています。
また、かき氷とは少し違うようですが、氷菓子として、紀元前の中国やアラビア文化圏にも存在していました。4000年前の中国にはすでに凍ったシロップのようなものまであったのだとか。イランでは2500年前に「ファールーデ」という氷菓子が誕生しました。どのようなものかというと、一言でいえば「イラン式のかき氷」。でん粉から作られる細い麺を冷やし、そこに凍らせたシロップをかけて仕上げます。
日本で最も古いかき氷の記述は「枕草子」
現在、我が国で確認されているかき氷の最も古い記述は、平安時代中期に清少納言によって書かれた「枕草子」の中に出てきます。第40段「あてなるもの(上品なもの)」の一節で、以下のように記されています。
『削り氷(ひ)にあまづら入れて、新しき金椀(かなまり)に入れたる』
現代語に訳すと、
『削った氷にあまづらをかけて、新しい金属製のお椀に入れたもの』
となりますが、これではいまいちイメージが湧かないかもしれません。キーワードとなる言葉を抜き出して、もう少し深めていきましょう。
「削り氷」とは、小刀で削った氷のことで、現在のかき氷とほぼ同じものだったのではないかと推測されています。「あまづら」は、古代の甘味料で、正式名称を「甘葛煎(あまづらせん)」といいます。砂糖が普及するにつれて次第に忘れ去られていった幻の甘味料といわれ、原材料や作り方がハッキリとはわかっていないそうです。そのため、どのようなものだったかはさまざまな見解があるようですが、有力なのが「ナツヅタの樹液を煮詰めたもの」といわれています。
当時は、氷も甘味料も貴重な時代。それらを用いてつくられる「元祖かき氷」は、高貴な身分のごく限られた人しか口にできないものでした。
コラム~平安時代に、夏の氷はどうやって入手した? しかし、冷凍庫などない1000年前に、いったいどのように氷を調達していたのか気になりませんか? 当時の氷は、厳冬期に凍った池から切り出したものだったようです。それを「氷室(ひむろ)」と呼ばれる施設に運び入れ、藁やおがくずなどで覆って保管していたといいます。氷室は、山間部や洞窟といった夏でも涼しい場所につくられていたため、夏になるとそこから貴族の元へと荷車で運ばれていきました。 |
庶民の間にも広まっていった明治時代
時は流れて——製氷技術の発達により、かき氷が庶民も気軽に楽しめるようになったのが明治時代です。日本初のかき氷屋は明治2(1869)年に横浜で誕生しました。ただ、この頃はまだかき氷という名称ではなく、「氷水(こおりすい)」という名で販売されていたそうです。氷水は、細かく砕いた氷にシロップをかけたもので、現在のかき氷とは姿も少し異なるものでした。というのも、当時はかんなで氷を削っていたため、粗くしか削れなかったのです。
明治20(1887)年を境に、氷水はいまのようなかき氷に近くなっていきます。その年に氷を薄く削れる氷削機が発明されたから。ですが、全国的に普及するまでにはずいぶんと時間を要しました。氷削機が一般的に使われるようになったのは昭和に入ってからで、そこからかき氷文化は全国に浸透していきます。
熱中症予防にかき氷を活用しよう!
近年では、かき氷を用いた熱中症対策をよく見かけるようになりました。ここでは、熱中症予防にかき氷を活用すべき理由と、自宅でも簡単につくれるおすすめのかき氷レシピを紹介します。
火照った体を素早くクールダウン
かき氷が熱中症の予防に役立つとされる最大の理由は、体温を素早く下げる効果があることです。同時に水分補給ができることも大きなメリットとしてあげられます。ただし、食べ過ぎは禁物です。胃腸を急激に冷やしてしまうなど、体調不良の原因になりかねません。また、豪華すぎるトッピングはカロリー過多になってしまう恐れがあるので、気をつけたいところです。
昨今、熱中症予防として「アイススラリー」も注目されています。アイススラリーは、細かい氷の粒子が液体に混じったシャーベット状の飲み物のこと。流動性が高いため、通常の氷よりも効率よく体の内部を冷やすことができるといわれています。かき氷もドロっと溶けるとアイススラリーのようになることから、その状態で食べることをおすすめしている専門家もいるほどです。
自宅でも手軽につくれるかき氷レシピ
ここでは、日本かき氷協会も推奨している熱中症対策に効果的なかき氷のレシピを紹介します。
〜塩スイカかき氷〜
⚫️材料(4人分) |
*スイカ 2切れ分(約150g) *砂糖 120g *塩 約1g *水 150g *レモン汁 1/2個分(約15g) *氷 300g |
⚫️作り方 |
①砂糖・塩・水を鍋に入れて溶けるまで加熱し、粗熱が取れたらレモン汁を加えて冷蔵庫でよく冷やす。 ②スイカを食べやすい大きさに切り、タネを取り除く。 ③氷を削って①をかけ、その上からもう一度氷を削って①をかけ、最後にスイカを飾って出来上がり。 |
【かき氷こぼれ話】アイスクリーム頭痛の予防法
かき氷をはじめとする冷たいものを食べたとき、頭にキーンと痛みを感じたことがある人は多いのではないでしょうか。ですが、実は、キーンとならない予防法があるのです! その方法とはズバリ、「ゆっくり時間をかけて食べる」こと。ゆっくり時間をかけて食べると、口の中や喉の温度が急激に下がるのを抑えられるため、神経への刺激や血管の膨張を緩やかになり、あの頭痛が起きにくくなるそうです。ぜひお試しを。
余談ですが……冷たいものを食べた時に起きる頭痛を「アイスクリーム頭痛」といいます。冗談のような名前ですが、意外にも医学的な正式名称なのだそうです。
伝統と革新が溶け合う”かき氷”で厳しい暑さを乗り切ろう
近年は、かき氷の進化が目覚ましく、スイーツの域を超えた食事系かき氷も登場し、市民権を得つつあります。もはや新しい食べ物という気さえしてくるかき氷ですが、想像以上に長い歴史を誇る食べ物です。起源は平安時代中期まで遡り、清少納言が書いた「枕草子」の中に出てくる一節が、日本におけるかき氷の最古の記述とされています。千年以上も前から存在し、変化を遂げながら現在まで脈々と受け継がれているかき氷。いまでは「涼」を楽しむだけでなく、熱中症予防にも活用されています。この夏、悠久の歴史に思いを馳せながらかき氷を食し、厳しい暑さを乗り切りましょう!
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