クリームソーダに恋する夏〜歴史から作り方まで〜
涼やかな見た目に、シュワっとした喉越しがたまらないクリームソーダ。夏にはとりわけ心惹かれます。鮮やかな緑色のソーダ水にバニラアイス、トッピングは真っ赤なチェリー、その組み合わせと風貌から、クリームソーダは海外発祥と思われがちですが、意外なことに日本生まれの飲み物です。今回は、子どもから大人まで幅広い世代に好かれる魅惑の飲み物「クリームソーダ」についてお話します。
クリームソーダが誕生したのは薬局!?
日本でクリームソーダが誕生したのは、今からおよそ120年前の明治時代。その長い歴史を紐解いていくと、興味深い事実が浮かび上がってきます。それは、クリームソーダと「薬局」の関係性です。では、さっそく見ていきましょう。
そもそも「炭酸水」はいつ頃から飲まれるようになったの?
「天然の炭酸水」は、日本では滅多にお目にかかれませんが、ヨーロッパでは古来より各地で炭酸を含む鉱泉(以下、炭酸泉)が湧き出ています。そのため、ガス(炭酸)入りミネラルウォーターとして定着しています。
紀元前1200年頃には、炭酸泉を利用して戦いで負傷した兵士の治療をしていたのだとか。飲用利用は古代ローマ時代からといわれています。低温の炭酸泉を浴用ではなく飲料水として使ったのが始まりだったようですが、炭酸水は健康増進に役立つことから、病気の人にも飲まれるようになっていきました。ちなみに、日本でも炭酸水(※)を飲んで病気が治ったという記述が「日本書紀」の中で確認できるそうです。
- 日本書紀には「醴泉(れいせん)」と記述されています。江戸時代の蘭学者によると醴泉は炭酸泉と考えられるとしています。
薬として使われていた「炭酸水」① 〜ヨーロッパ編〜
前項でご紹介したように、ヨーロッパでは「天然の炭酸水」を飲む習慣が古くからありましたが、人工的に炭酸水がつくられるようになったのは18世紀に入ってからです。1750年、フランスの大学教授が果汁入りの水(レモン水のようなものだったそう)に重曹を加えた炭酸水を開発し、医療用に提供。それを皮切りに、ヨーロッパでは炭酸ガスを人工的に水に溶かす方法が盛んに研究されるようになります。1970年代初頭に、イギリスで炭酸水の製造方法が確立。1776年にはスウェーデンで炭酸水の商業的な生産が始まりました。そこから炭酸水の製造はヨーロッパ各地へと広がっていきます。
薬として使われていた「炭酸水」② 〜アメリカ編〜
ヨーロッパからアメリカに炭酸水の製造方法が伝わったのは19世紀に入ってすぐのこと。1807年にフィラデルフィアの薬剤師が果汁と砂糖で味付けした炭酸水を開発。その翌年、自身のドラックストアで売り出しました。諸説ありますが、この薬剤師がつくった味付き炭酸水が現在の炭酸飲料の元祖であるというのがいちばん有力な説とされています。やがて味付き炭酸水は、ほかのドラックストアでも薬剤師によって調合され販売されるようになり、たちまち大人気に。炭酸水はアメリカでも健康に良いものとして信じられていたことが人気に拍車をかけたようです。
1832年には、ソーダ水製造のための専用機器、いわゆる「ソーダファウンテン」を開発・販売する会社も出現。そこからソーダファウンテン事業は進展し、1876年に大きな転機を迎えます。フィラデルフィアで開催された独立100周年記念祭に数々の豪華なソーダファウンテンが展示され、それを見た薬剤師やドラックストアのオーナーがこぞって注文するように。こうして、ソーダファウンテンは全米のドラックストアで設置されるようになっていくのです。
そして日本へ 〜銀座生まれのハイカラな飲み物〜
そんなアメリカの薬局事情に驚いたのが、日本初の洋風調剤薬局「資生堂」の創業者・福原有信でした。パリ万博の帰りに立ち寄ったアメリカのドラックストアで、ソーダ水が販売されているのを目の当たりにしたのです。福原はさっそくアメリカからソーダ水の製造機などを輸入し、明治35(1902)年、銀座にある資生堂薬局の一角で、ソーダ水とアイスクリームの製造・販売を始めました。日本初のソーダファウンテンの誕生です。ソーダ水にアイスクリームを浮かべた「アイスクリームソーダ」はいつ産声を上げたのかは定かではありませんが、大正11(1922)年には、ソーダファウンテンのメニューに掲載されていることが確認できるそうです。
太宰治の作品にも登場する資生堂薬局のアイスクリームソーダ。明治から大正、昭和初期を生きた多くの文豪や偉人にも愛されました。当時は高級品で庶民にはなかなか手の届かなかったアイスクリームソーダが、全国の喫茶店に広がり、クリームソーダという名で庶民も気軽に楽しめるようになるのは戦後、高度成長期を経てからのことです。
なお、資生堂薬局の一角に設けられたこのソーダファウンテンこそ、全国的にも知られる洋食レストラン&喫茶「資生堂パーラー」の前身です。
【ミニコラム①】 ソーダ・ラムネ・サイダーの違い
ソーダは、ソーダ水を略した呼び方で、広義には炭酸水全般を、狭義には甘味などを含まない無味の炭酸水のことを指します。なので、広義ではラムネとサイダーもソーダ水の一種といえるわけですが、違いは何なのか? じつは中身の違いはなく、容器の違いによって以下のように区別されているのです。
*ラムネ:ビー玉入りの容器に入っているもの
*サイダー:上記以外のもの
今年の夏は、家でも外でもクリームソーダ!
近年の昭和レトロブームで、クリームソーダの人気が再燃しているといわれています。とくにZ世代と呼ばれる若者からの支持が熱いのだとか。ここでは、その理由とクリームソーダの作り方を紹介していきます。
時代を超えて脈々と受け継がれてきた食文化
いまでは、定番の緑色以外にもさまざまな色のクリームソーダが楽しめるようになりました。SNSにはそんな映えるクリームソーダの写真があふれていますから、若者の心を捉えるのはやはり「フォトジェニックさ」なのかと思いきや、ある調査からそれだけではない理由が見えてきたといいます。
クリームソーダを飲むようになったきっかけは「レトロな雰囲気を味わいたい」というのが多かったそうですが、飲むようになってからはリピーターほど「美味しいから」や「喫茶店が好き」「かわいい」といった理由をあげたのだそう。そこには、単にインスタ映えを意識したり、レトロブームに乗っていたりするのではなく、味・場所・見た目すべてを含めて楽しんでいる若者の姿がありました。クリームソーダが登場して以来、一過性の人気で終わることなく、ひとつの「食文化」として今日まで受け継がれてきた理由の一端が見えるような気がしませんか。
クリームソーダの作り方
自分で気軽に作れてしまうのも、クリームソーダの魅力かもしれません。実際おうちで作って楽しむ人も増えているそうです。では、さっそく作り方をご紹介します!
<クリームソーダの作り方>
●材料(1人分)
・かき氷用シロップ 20ml
・炭酸水 200ml
・氷 適量
・バニラアイス 適量
●作り方
- グラスに氷をたっぶり入れる
- 氷を入れたグラスにかき氷用シロップを入れたあと、炭酸水を注ぎ入れる
※市販のソーダを使うのもアリです。メロンソーダなら、まさにクリームソーダ色!
※シロップの分量はあくまで目安なので、味をみつつ調整してください。 - 氷の上にバニラアイスをそっと浮かべる
※お好みでチェリーを飾るのも◎
注意点:くれぐれも、バニラアイスは【氷の上に】のせるようにして盛り付けること。炭酸水との接触面が多いほど、泡があふれ出やすくなります。
【ミニコラム②】 アメリカのクリームソーダはこう!
アメリカでクリームソーダと呼ばれるものは、バニラ風味をつけた炭酸飲料のこと。色も日本とは違ってピンク色が定番のようです。では、日本のクリームソーダに近いアメリカの飲み物は……というと「ソーダフロート」と呼ばれるもの。コーラの上にアイスクリームをのせた「コークフロート」がアメリカではおなじみなんですね。
とっておきのクリームソーダを傍に置いて過ごす夏
クリームソーダは、近年の昭和レトロブームで人気が再燃していることもあり、どこか昭和のイメージを持つ方も多いかもしれません。ですが、産声をあげたのは、さらに前の明治時代。しかも、場所は薬局の一角というのだから、意外に感じる人も多いのではないでしょうか。モダンでハイカラな飲み物は、さらなる進化をとげて今なお愛され続けています。レトロな喫茶店で飲むもよし、自宅で手作りするもよし、今年の夏はクリームソーダと一緒に過ごしてみませんか?
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。