秋の味覚を楽しむ。暮らしを彩る保存食と果実酒を仕込む
田んぼが黄金色に輝き、木々には果樹がたわわに実り、収穫の秋がやってきました。新米や新蕎麦をはじめ、林檎、梨、柿、栗、薩摩芋、南瓜、秋刀魚、鮭……と、秋の味覚は盛りだくさん。その旬の食材を無駄なく食べるため、かつては食糧の確保が難しかった冬を乗り切るため、先人たちは「保存食」を編み出しました。いまは、食品ロスを削減する手段としても注目されています。さて、食欲の秋を満喫しながら、保存食づくりに挑戦してみましょう。
古今東西の「保存食」
ところで、「保存食」とは何でしょうか。「保存」のきく「食」品ではありそうですが……。ここでは、そもそも保存食とは何か、どのようなものがあるのかを確認します。また、現代社会で問題視されている食品ロストの視点からも「保存食」について考えてみましょう。
保存食とは何か
保存食とは、常温で長期保存できる食品です。ポイントは、「常温」と「長期保存」。冷蔵庫や冷凍庫のない時代は、食材の保存が困難でした。そのままでは、すぐに傷んでしまうからです。腐らせず、おいしく食べるために、さまざまな知恵と工夫が施されました。現在は、冷蔵保存を前提としたものも保存食と呼ばれることがあります。
いまも食卓にのぼる保存食といえば、干し魚・梅干し・高野豆腐・ハム・粕漬け・ジャム・ピクルス・漬物などでしょうか。いずれも、水分を抜くために「干す」「塩漬けにする」「凍らせて乾燥させる」、殺菌のために「燻す」、細菌の繁殖を防ぐために「オイル漬け・アルコール漬けにする」「酢漬けにする」、有益な微生物や酵素を生かして「発酵させる」といった加工がされています。
日本の保存食、世界の保存食
保存食は、その土地の風土や文化に育まれてきました。だからこそ、各地の名産品ともなっています。有名どころでは、秋田の「いぶりがっこ」、伊豆諸島の「くさや」、奈良の「奈良漬け」、高知の「めざし」、福岡の「辛子明太子」など。流通の発達した現代では、全国各地の食卓に並ぶこともあるでしょう。ところが、もともとは、その土地ごとにとれる旬の野菜や魚の保存方法だったのです。
日本だけではなく、世界中に保存食はあります。キムチ(韓国)やザーサイ(中国)、スモークサーモン(カナダ)、ザワークラウト(ドイツ)は、日本でもすっかりおなじみです。同じように日本の食卓に定着している、ピクルスは紀元前2000年ごろのメソポタミア、ソーセージは約3000〜3500年前のエジプトが発祥ともいわれます。そうしてみると、保存食は、太古から脈々と受け継がれてきた人類の知恵といえそうです。
食品ロスと保存食
近年、世界的に問題となっているのが「食品ロス」。これは、食べられるのに廃棄されている食品を指します。日本における食品ロスは年間で約600万トンといわれ、そのうちの46%(276万トン)が家庭の食品ロスです。数字だけではなかなかピンとこないかもしれません。でも、「国民一人ひとりが、毎日お茶碗1杯のごはんを捨てている」と言い換えると、どうでしょうか。いかにもったいないことなのか、より実感できますね。
家庭内の食品ロスは、次の三つに分類されています。
①食べ残し(食べきれずに廃棄される料理)
②直接廃棄(賞味期限切れなどで手つかずのまま廃棄される食材)
③過剰除去(野菜や果物の皮・ヘタ・タネを取り除くとき、余分に捨てられてしまう食べられる部分)
このうち、①は分量の調整、③は調理方法で解決できるでしょう。②の解決策のひとつとして有効なのが、保存食です。
秋に仕込んで、冬に食べたい「保存食」
昔とは違って、現代は冬でも新鮮な食材が手に入ります。が、この秋は、先人たちにならい、豊かな実りを保存食に調理して、冬に備えることにしましょう!
日持ちさせるためのポイント
なぜ、時間が経つと食材は傷むのでしょうか。その原因は、細菌やカビ、酵母などの微生物の働き。ということは、微生物の活動を抑制できれば、食材は日持ちするわけです。そこで、微生物を活発にする「水分」「温度」「酸素」のコントロールがポイントとなります。先人たちは、次のような方法にたどり着きました。いずれかの方法で、保存食はつくられています。
①干す、凍らせて乾燥させる
②塩漬けにする
③砂糖漬けにする
④酢漬けにする
⑤オイル漬けにする
⑥アルコール漬けにする
⑦燻す
⑧発酵させる
三種の保存食レシピ
では、いよいよ保存食づくりに挑戦してみましょう!
【干し野菜】
①ジャガイモ・カボチャ・キノコ類など、お好みの秋野菜を洗い、水気をよく拭き取る。
②野菜は皮をむかず、食べやすい大きさに切る。
③通気性のよいザルなどに野菜を並べて、日が当たる風通しのよい場所に干す。
*天日干しに最適なのは10〜15時
*干し時間の目安は半日〜2日ほど
*ときどき上下を裏返しながら、まんべんなく乾かす
④しっかりと乾燥させたら、密閉容器に入れて保存する。
旨みが凝縮した干し野菜は、煮物や炒め物、味噌汁のほか、オムレツやパスタの具にもおすすめ。
【自家製なめたけ】
①エノキの石づきを切り落とし、3等分に切り、ほぐす。
②鍋に、①のエノキと酒・醤油・みりん・砂糖を入れて混ぜ合わせたら、中火で煮る。
③エノキがしんなりしたら、酢を入れて、一煮立ちさせる。
【秋刀魚/鮭のオイル漬け】
①秋刀魚または鮭に塩を振って、水気を拭き取る。
②フライパンに秋刀魚または鮭を並べ、オリーブオイルに浸す。
③②にニンニク・ローリエ・コショウ・ハーブを加え、煮る。
④オリーブオイルにふつふつと気泡が立ったら、弱火にして10分ほどさらに煮る。
⑤粗熱を取ったら、オリーブオイルごと密閉容器に入れて、保存する。
秋の果物でつくる「果実酒」
秋の果物も、おいしい保存食になります。ジャムやコンポートもいいけれど、今回は「果実酒」に挑戦してみましょう!
おいしい果実酒をつくるための注意点
おいしい果実酒をつくるには、材料となる果物・酒類・砂糖を吟味すること。まず、果物は、「新鮮である」「傷がない」「粒がそろっている」の3点をチェックしましょう。酒類はホワイトリカー(焼酎甲類)がおすすめ。そして、砂糖は純度の高い氷砂糖あるいはグラニュー糖がよいでしょう。
さらに重要なのは、違法にならない果実酒づくりを知っておくこと。果実酒は、お酒なので「酒税法」を守らなければなりません。
※※自家醸造について※※
酒税法では、自分で飲む目的で、酒類(アルコール分20度以上、酒税が課税済み)に次のものを混和する場合は、例外的に製造とはしないとされています。
1 米、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ若しくはでんぷん又はこれらのこうじ
2 ぶどう(やまぶどうを含みます。)
3 アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす
(国税庁ホームページより抜粋)
また、「自分で飲むための酒類」と規定されているため、販売は禁じられています。
三種の果実酒レシピ
新鮮な果物が手に入ったら、さっそく果実酒を仕込みましょう!
【リンゴ酒/柿酒/カリン酒(共通)】
①果物は洗い、水気を拭き取る。
②リンゴは皮をむいて、柿・カリンは皮ごと、適当な大きさに切る。
③保存用の瓶に、②と氷砂糖もしくはグラニュー糖・ホワイトリカーを入れて、漬け込む。
今回は、秋の代表的な果物三種(リンゴ・柿・カリン)を使いましたが、基本的なつくり方はどの果物も同じです。好きな果物で、いろいろな果実酒を試してみましょう!
秋の味覚は、おいしく食べて、おいしく保存
米が実り、木々はたくさんの実を結び、豊かな秋がやってきました。店頭にも、秋の味覚が所せましと並んでいます。その旬の食材を、先人たちは保存食にして、食糧の調達しづらかった冬を乗り越えてきました。昨今では、食品ロスの解決策としても注目されています。古今東西の先人たちの知恵と工夫にならい、この秋は保存食づくりに挑戦してみてはいかがでしょうか。
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