「紅葉」を狩る?言葉の意味や由来を知って「紅葉狩り」を堪能しよう!

厳しかった暑さも一段落し、徐々に秋らしくなってきました。お出かけの季節を迎え、紅葉を観に行こうと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ところで、紅葉を見に行くことを「紅葉狩り」といいますが、何かを捕まえるような狩りをするわけでもないのになぜ「狩り」というのでしょう? 今回は、言葉の意味を皮切りに、紅葉狩りについてさまざまな角度から掘り下げていきます。

なぜ「紅葉狩り」っていうの?①〜「狩り」の意味を探る〜

狩りというと「狩猟」のイメージが先行しますが、じつは辞書にはそれだけではない意味も載っています。さっそく見てみましょう。

広辞苑に載っている「かり【猟・狩】」の意味

広辞苑には、かり【猟・狩】の意味として、次の3つが載っています。

  • 鳥獣を追い立てて捕らえること。狩猟。
  • 魚・貝をとること。すなどり。
  • 桜花・紅葉・蛍などを求め、鑑賞すること。また、食用・薬用の植物や茸(きのこ)を採取すること。

余談ですが、「すなどり」は漢字にすると「漁」。「漁をする」ことと、「漁夫」の2つの意味があります。

古語辞典に載っている「かる【猟る・狩る】」の意味

古語辞典には、かる【猟る・狩る】の意味として、次の2つが載っています。

  • (鳥獣などを)駆り出して捕らえる。
  • (花・紅葉などを)たずね求めて鑑賞する。

なぜ「紅葉狩り」っていうの?②〜「紅葉狩り」の由来を探る〜

狩り(狩る)という言葉は、古くから「花や紅葉をたずねて鑑賞する」という意味で使われていたことがわかりました。では、「紅葉狩り」の由来は何なのでしょう? ここでは有力な2つの説を紹介します。

由来① 平安時代の貴族が考えた説

平安時代の貴族は、「歩く」ことを品がない行為と考えていたのだそう。そのため、宮中に参内するときなど外出の際は「牛車」を利用していたのですが、さすがに牛車で野山を巡ることは困難です。けれど、紅葉は見たい。そこで、(自分の足で)野山に分け入り、紅葉を鑑賞することを「狩り」に見立て、紅葉狩りと呼ぶようになったといわれています。ちなみに、桜を見に出かける「桜狩り」も実際に使われていた言葉で、平安時代中期に書かれた『宇津保物語』に初めて登場します。「お花見」よりもずっと古くからある言葉なのです。

由来② 戸隠に伝わる伝説が元になっている説

長野県の戸隠に残っている「鬼女紅葉」伝説をご存知でしょうか。あくまで伝説なので、内容が一部異なる諸説がありますが、ここでは、明治時代に書かれた『北向山霊験記』という書物をベースにしたお話を紹介します。

〜鬼女紅葉伝説 あらすじ〜

千年以上も昔のこと。紅葉という美しい女性が、皇族で武将でもあった源経基(みなもとのつねもと)の側室として寵愛を受けていました。ところが、経基の正室が病に倒れるとあらぬ噂がたつのです。「紅葉が呪いの祈祷をしている」と。それを理由に紅葉は都から戸隠に流されてしまいます。流れ着いた水無瀬(みなせ)の村の人々は、美しく教養のある紅葉を敬愛し、大切にしたそう。それに応えるように、紅葉も村人たちに都の文化や読み書きなどを教えながら暮らしていました。けれど、経基や都への思いが消えることはなく、再び上京を試みる紅葉。戸隠の荒倉山の岩屋に移り住み、山賊を仲間に従えました。力づくで京へ上ることを考えたのです。人々は紅葉を「鬼女」と呼び、恐れました。それを知った朝廷は、平維茂(たいらのこれもち)に紅葉の討伐を命じます。最初の討伐では、紅葉の妖術で敗走し維茂。次の討伐では、北向観音で必勝祈願をして授かった「降魔の剣」で紅葉を仕留めました。紅葉、享年33歳。

以来、水無瀬の地は、鬼のいない里「鬼無里(きなさ)」と呼ばれるようになりました。

室町時代より上演されている能の「紅葉狩」では、紅葉を「美女に変身した人を襲う鬼」として描かれ、討伐の意味で「狩」と表現されています。

紅葉狩りの楽しみ方

ここでは、紅葉狩りの楽しみ方を紹介します。

基本の楽しみ方

さまざまなシチュエーションで楽しめるのが、紅葉狩りの魅力でもあります。以下に代表的なものを紹介します。

  • 山や渓谷、湖畔など自然の中で絶景を満喫する
    紅葉の名所近くには名湯もあり!温泉につかりながら紅葉を眺めるのもおすすめの過ごし方です。
  • 寺社仏閣で和の心に浸る
    紅葉の時期だけ特別公開している神社やお寺もあるので、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
  • 紅葉ルートをドライブする
    紅葉が楽しめるドライブロードは全国に点在しています。各地の紅葉を車で巡るのも素敵です。

以上のように、紅葉狩りというと、ちょっと足を伸ばして楽しむイメージがありますが、紅葉狩りの醍醐味はそれだけではありません。家の近くの公園や道路沿いにも美しい姿を見せてくれる木々はありませんか? 身近な紅葉を愛でるのも、有意義な楽しみ方のひとつです。

紅葉狩りをもっと楽しむための豆知識①〜「紅葉」と「黄葉」〜

木々が紅葉したという場合、今では「紅葉」という表現を用いますが、万葉集では主に「黄葉」と表記されています。なぜ、「紅」ではなく「黄」だったのか? 古代は黄色くなる植物が多かったから——というわけではありません。お手本とした中国文学の影響ではないかと考えられているそうです。ちなみに、発音も今とは違い「もみじ」ではなく「もみち」だそう。

さて、冒頭で「今では『紅葉』を用いる」と述べましたが、紅葉と黄葉を書き分ける場合もあるようです。この場合は見たまま、直球な使い分け。赤くなるものが「紅葉」で、黄色くなるものが「黄葉」です。では、どんな植物が赤くなり、どんな植物が黄色くなるのか。具体的に見ていきましょう。

<紅葉する植物>

モミジ(カエデ)、ソメイヨシノ(桜)、ナナカマド、ドウダンツツジ、ハナミズキなど

葉の中のクロロフィル(緑色の色素)が分解されるとともに、アントシアニン(赤色の色素)がつくられることで、赤く色づきます。アントシアニンの合成には日光が必要不可欠です。

<黄葉する植物>

イチョウ、エノキ、シラカバ、イタヤカエデ、ミズナラなど

葉の中のクロロフィル(緑色の色素)が分解されることで、同じく葉の中に含まれているカロテノイド(黄色の色素)の色が目立ち、黄色く見えるのです。

紅葉や黄葉だけでなく、茶色く褐葉(かつよう)する植物も。代表的なのが、ケヤキやメタセコイヤです。植物ごとの色の違いをじっくり観察してみるのもいいのではないでしょうか。

紅葉狩りをもっと楽しむための豆知識②〜日本三大紅葉名所〜

我が国には、「日本三大〇〇」というものが多くあります。紅葉の名所もご多分にもれず。次の3カ所が日本三大紅葉名所として知られています。

  • 京都の「嵐山」
  • 栃木の「日光」
  • 大分の「耶馬溪」

秋の旅行を考えている方は、候補に入れてみてはいかがでしょうか。

言葉の意味に注目してみると、じつに奥が深い「紅葉狩り」

紅葉狩りは、紅葉を見に行くという共通認識ができているため、改めて意味を深追いすることはあまりないかもしれません。ただ、狩猟をするわけでもないのに「狩り」と呼ぶことに疑問を感じている人は少なくないはず。いざ調べてみると、「狩り(狩る)」は、古の時代から花や紅葉をたずねて鑑賞するという意味で使われていたことがわかります。「紅葉狩り」の由来に「鬼女紅葉」伝説があることにも意外性を感じるのではないでしょうか。こんな由来にも思いをはせつつ、この秋、紅葉狩りを堪能してみませんか? 自然のなかで紅葉や黄葉に親しむもよし、能や歌舞伎で紅葉に触れるもよし。素敵な秋の時間を過ごしましょう。

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