秋だから、香りを聞く〜暮らしに心地よく風雅なひとときを〜

実りの秋、芸術の秋、読書の秋、スポーツの秋、行楽の秋……と、この時期ならではの楽しみ方はさまざま。夏の厳しい暑さがやわらぎ、さわやかだから、いつもよりアクティブに活動したくなるのかもしれません。新しいことに挑戦したくなったら。この秋は、「香りを聞く」という体験をしてみませんか。それは、いったいどういう体験なのか、香りとは聞けるものなのか——。暮らしに風雅なひとときを添える「香り」についてお伝えします。

「香りを聞く」の意味

「香り」と「聞く」の取り合わせは、ちょっと意外かもしれません。一般的に、香りを感じ取るのは「鼻」であり、その働きを「嗅ぐ」といい、「耳」で音や声を感知することを「聞く」というからです。

しかし、「聞く」の意味はそれだけではありません。

『広辞苑 第七版』を引いてみると……

❶言語・声・音などに対し、聴覚器官が反応を示し活動する

❷(「効く」とも書く)物事をためし調べる

と、大きく二つに分類され、さらに見ていくと❷には、

①かぎ試みる、かぐ

②味わい試みる

③あてて試みる、なぞらえる、準じる、

とあります。

ということは、「香りを聞く」とは、「においを嗅ぐ」という意味になりそうです。

日本のにおい事情と、香りの働き

日々の暮らしには、さまざまなにおいが漂っています。コーヒーの香りや花の匂いに心安らぎ、ご近所トラブルになりかねない悪臭に眉をひそめているのではないでしょうか。では、あらゆるにおいを「聞く」と表現するかというと、それはちょっと違うようです。

日本の伝統文化「香道」

「香りを聞く」に違和感を覚えなかったとしたら、香(こう)をたしなむ方かもしれません。

日本の伝統文化である「香道」とは、香木の香りを鑑賞する芸道です。その歴史は古く、ルーツは飛鳥時代といわれています。仏教の儀礼とともに香文化が伝わったのだとか。『日本書紀』には、595年、淡路島に漂着した流木が沈香(じんこう/香木の一つ)で、推古天皇に献上したとの記述があるのだとか。

もともとは仏事のために薫かれた香が、平安時代には貴族のたしなみ、室町時代には武士の芸道となりました。江戸時代には、現代に伝わる作法が確立されていたといいます。また、中国から線香の製造技術が伝わり、庶民の生活に線香が浸透していきました。

長い歴史のなかで磨かれてきた香道では、香りは嗅ぐのではなく、聞くもの。じっくりと香りを味わい、その香が伝えるものを心で聞き取るということから、「香を聞く」というのだそうです。香の歴史を知ると、「香りを聞く」には、「においを嗅ぐ」よりも雅な趣が感じられますね。

新しい公害「香害」

近年、社会問題となっているのが「香害(こうがい)」です。これは、香水や化粧品、合成洗剤、柔軟剤、防虫剤などに含まれる人工的な香料が原因と考えられる健康被害のこと。とはいえ、香料と体調不良の因果関係などはまだはっきりとはわかっていません。しかし、生活を取り巻く香りが、ある日突然、自分や家族の健康を脅かすことがあり得るのです。しかも、それをきっかけに化学物質過敏症を発症することもあり、侮れません。これを機に、自分の周りにある香りについて、少し考えてみたいものです。

香りと「感じる脳」

鼻で感知したにおいは、脳に伝わります。大脳新皮質という理性や思考を司る「考える脳」をスキップして、大脳辺縁系という本能や記憶を司る「感じる脳」にダイレクトに届き、心と体に影響するそうです。つまり、心地よい香りを嗅げば、脳がリラックスして心身を健康な状態に導くというもの。その香りの力を活用したのが、アロマテラピーです。植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)に癒された人も少なくないでしょう。私たちは、良くも悪くも香りの影響を受けながら生活しているのです。

香りで暮らしを心地よく

香害には配慮しなければなりませんが、香りは心と体への良い効果も期待できそうです。それならば、ストレスを抱えがちな現代にあって、香りを暮らしに取り入れない手はありません。

聞香

聞香(もんこう)とは、香道の作法にしたがって香を聞くこと。香木を薫いた香炉を両手に持ち、その指の間に鼻を近づけて、香りを味わいます。

香木とは、香りの良い木のこと。香の世界では、沈香(じんこう)、その優良品である伽羅(きゃら)、白檀(びゃくだん)の3種です。直に火をつけず、炭で温めた灰にのせて間接的に熱を加えて、香りを立たせます。いまは香道具セットや電子香炉があるので、自宅で気軽に挑戦してみましょう。

組香

組香(くみこう)とは、複数の香木を聞き分ける遊び。和歌や物語などの古典文学の知識を盛り込んだルールに則り、進められます。秋に行われる組香が、「月見香」や「菊合香」です。

たとえば、月見香の進め方は次のとおり——まず、2種の香木を用意して、1種を「月」として4包、もう1種を「客」として3包に分けます。まず、「月」の1包を薫き、「月」の香りを覚えます。次に、「月」「客」6包からランダムに3包を選び、その香りを聞き分けます。その香の組み合わせが「月月月」なら「十五夜」、「月月ウ(客のこと)」なら「待宵」、「ウウウ」なら「雨夜」というふうに答えを用紙に記入して、最後に答え合わせをします。

本格的な組香は難しくても、月や菊を愛でながら、家族で香を楽しんでみてはいかがでしょうか。

空薫

空薫(そらだき)とは、部屋に香りを漂わせること。香炉の灰を炭で温め、熱くなったら香木や練香を置いて、香りが広がるのを待ちます。この方法で、平安時代の貴族たちは、部屋や衣裳に香を薫き染めたのだとか。これは、そのまま現代に暮らしにも取り入れられそうです。家の顔ともいえる玄関、くつろぎたいリビングや寝室、においの気になるトイレなどに、空薫はいかがでしょう。

空薫よりも気軽に楽しむなら、線香がおすすめ。それは仏事に使うものと思いがちですが、そんなことはありません。スティック状の香を線香といい、香りを楽しむものでもあるのです。

さらにお手軽なのは、匂い袋。部屋に飾るだけではなく、クローゼットやシューズボックス、机の中に置いたり、バッグやポーチにしのばせて持ち歩いたりしてもよいでしょう。

香りを聞いて、心に癒しと豊かさを

香りを聞くとは、ただ匂いを嗅ぐことではありません。それは、心を傾けてじっくりと香を味わうこと。心地よい香りには、心と体を癒す効果があるといわれます。ストレスの少なくない現代だから、暮らしのなかに香りを聞くひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

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ウッディラボのルーツは、1947年創業の家具屋。木に携わり、木のおかげでこれまで事業を続けてきました。もっと木の良さを活かし、お客様の役に立ちたい。そんな思...

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