和紙の灯りに癒される冬 〜和紙照明の魅力を再発見〜

ぬくもりを感じさせるものが恋しい季節になりました。「灯り」もそのひとつではないでしょうか。辺りをほんのり照らすやわらかな光は、温かみのある空間を演出してくれます。その筆頭ともいえるのが、和紙照明です。冬の夜にはぴったりのアイテム。今回は、和紙の灯りの魅力に迫ります。

和紙照明に癒されるワケ

和紙を透かして広がるやわらかな光は、どこか懐かしく、安らぎを覚えます。それはなぜなのでしょう?その理由を解説するとともに、和紙そのものの魅力についても紹介します。

和紙ならではの絶妙な「光の透過率」と「乱反射」

和紙の灯りに安らぎを覚えるのは、「光の透過率」が大きく関係しています。光の透過率とは、大まかにいうと、物体が光を通す割合のこと。和紙の光の透過率は40〜50%とされていますから、和紙を通すと光の量は半分ほどになります。これが、「やわらかな光」の正体です。また、和紙の灯りがやわらかく見えるのは、光の「乱反射」も関係しているといいます。和紙の繊維はランダムに重なり、すき間も多いため、光が乱反射しやすいのだそう。乱反射した光は均一に拡散することから、さながら間接照明のような温かみのある灯りになるといわれています。

いまの時代だからこそ見つめ直したい和紙の魅力3選

和紙照明を語るうえで欠かせない和紙。見た目の美しさや手触りの良さのほかにも、さまざまな魅力があります。ここでは、「いまの時代だからこそ見つめ直したい」という視点で、和紙の魅力を3点紹介します。

自然素材でできている

古来より、和紙の原料には、麻や竹、桑類など植物の繊維が利用されてきました。天然由来の素材からつくられ、土にもかえりやすい和紙は、まさに「エコ」な製品です。人にも環境にもやさしいことは言うまでもないでしょう。時代とともに淘汰された原料もあるなか、現代でも楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)の3種は代表的な和紙の原料として知られています。それぞれの植物の特徴を以下に紹介します。

  • 楮(コウゾ)
    クワ科の落葉低木。栽培が容易で収量も多いため、日本では最も多く利用されています。繊維は太くて長く、強靭。障子紙・表具用紙・美術紙など幅広い用途で使われています。
  • 三椏(ミツマタ)
    ジンチョウゲ科の落葉低木。日本固有の製紙原料です。繊維は細く柔軟で光沢があります。紙肌は上品で繊細。世界一の品質を誇る日本銀行券(紙幣)の原料として用いられています。
  • 雁皮(ガンピ)
    ジンチョウゲ科の落葉低木。生育が遅く、栽培が難しい植物です。繊維は細く強靭で、光沢があります。虫がつきにくいため、文化財の補修によく使われています。

冷暖房効果を高める

前項でお話した和紙の「光の透過率」が影響し、冷暖房効果を高めるとされています。たとえば、「障子」がイメージしやすいでしょうか。窓から差し込む太陽光の半分は透過しますが、残り半分は遮られるので冷房効率のUPにつながります。

暖房効果を高めるのは、「新聞紙」を思い浮かべるといいかもしれません。紙には保温効果があることから、災害時に新聞紙が役立つことは広く知られるところです。和紙は、新聞紙のような洋紙よりも繊維間のすき間が広いため、より保温効果が高いといわれています。

調湿効果がある

和紙には、湿度を調整する機能があります。繊維が絡み合ってできている和紙は、多孔質構造で、素材の表面積も大きいため、水分の吸収・放出が効果的にできるからです。夏は湿気やすく、冬は乾燥しがちな日本において、古くから建具などの素材に和紙が使われてきたのは、先人たちの知恵にほかなりません。

〜番外編 ~
和紙の特筆すべき特徴「耐久性の高さ」

  「和紙千年、洋紙百年」という言葉を聞いたことはないでしょうか。文字どおり、和紙と洋紙の耐久性を比較した表現です。実際、日本には1,000年以上経過した和紙の古文書が多く残されています。最も古いとされるのは東大寺の正倉院に収蔵されている1,300年前の戸籍です。なぜこれほどまでに耐久性が高いのでしょう?その秘密のひとつに、和紙の「繊維の長さ」があります。洋紙の原料であるパルプの繊維の長さは1〜2mmほど。対する和紙の原料は、楮(コウゾ)で約7mm、和紙の繊維としては短めの三椏(ミツマタ)でも平均4mmといわれています。繊維が長ければ長いほど、一本の繊維に対する結合箇所が多くなり、それらが複雑に絡み合うことで、耐久性の高い丈夫な紙が生まれるのです。 そんな強みを持つ和紙は、書物や巻物、画材をはじめ、さまざまな用途に使われるようになりました。もちろん、和紙照明も例外ではありません。  

長い歴史を持つ和紙照明

ここからは、和紙の灯りがたどってきた道を見ていきましょう。

日本の灯りの起源

人類がはじめて使った灯りは、木などを燃料にした「焚き火」でした。やがて、動物や植物からとった油を燃やすタイプの「オイルランプ」が登場します。日本では、遅くとも飛鳥時代(6世紀末から8世紀初め)には、油を燃料とする灯りが使われるようになったと推測されています。「灯台(とうだい)」という照明器具ができたのもこの頃です。灯台の仕組みは、油を注いだ「火皿」に「灯芯(※)」を浸し、そこに火をともすというもの。灯台の一種である「高灯台」は、火皿の支柱の高さが75〜90cmほどあり、部屋全体を照らすことができました。ただ、風が吹くと簡単に火が消えてしまうため、風よけの工夫が必要だったようです。法隆寺の宝物に、その工夫がみられるといいます。13〜14世紀につくられたと考えられている灯台で、丸い反射板がつけられているそうです。

室町時代後期には、「瓦灯(かとう)」という照明器具が生まれます。瓦灯は、屋根瓦と同じ土からつくられたもので、火皿を置く台と釣鐘状の蓋がセットになっています。蓋をしたり、外したりすることで明るさを調整できました。というのも、蓋には空気導入・油煙抜けの穴がいくつも開けられ、蓋をしても穴から光が漏れて常夜灯のように使えたからです。

防風の面で難があった灯台や瓦灯を改良して生み出されたのが、行灯(あんどん)です。和紙で周囲を囲った行灯は、室町時代の終わり頃には存在していたようですが、一般的になるのはもう少し先、江戸時代に入ってからです。

※灯芯:「い草(多年草)」の茎の髄からつくられます。ちなみに、い草は別名「トウシンソウ」といいますが、由来はここからきています。

灯り文化が花開いた江戸時代

和紙照明の先駆けとなった行灯(あんどん)や提灯(ちょうちん)は、江戸時代に入ると急速に普及していきます。

行灯は、灯台と同様に油を燃料とする照明器具ですが、灯台と大きく違うのは、風よけがあることです。行灯には風よけのための「火袋(ひぶくろ)」がつけられました。火袋とは、竹や木の枠に和紙を貼って四方を囲ったもの。和紙が庶民の日用品にも使われるようになったのは、この頃です。時を同じくして、燃料となる菜種油も庶民にまで行き渡るようになり、行灯は急速に広まっていきました。

江戸時代には、漆(ウルシ)や櫨(ハゼ)などの植物を原料とする「和ろうそく」も普及し、専用の照明器具がつくられるようになります。そのひとつが「提灯」です。折り畳むことができる提灯は持ち運びに便利で、人々の夜の行動範囲が一気に広まったといわれています。

——長い時を経て現代。有名デザイナーも和紙照明を手がけるなど、伝統と革新が織りなす灯りが次々と生まれています。

先人の知恵・技術は脈々と受け継がれ、いまも温かな光が灯される

1,000年を超える歴史を誇る和紙。平安時代は貴族など一部の人しか使えない貴重なものでしたが、江戸時代に入ると、庶民の間にも広がっていきます。和紙を使った「あんどん」や「ちょうちん」といった照明器具が急速に普及していったのもこの頃。現代では光源にLED電球が用いられるなど、照明技術は日進月歩ながら、基本的な構造や姿は往時のままです。光がちょうどいいあんばいに透過する和紙の特性が活かされているからにほかなりません。この冬、和紙照明を取り入れて、ぬくもりに包まれてみませんか。

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