あいさつの心を表す「折形」〜祝いの季節にもてなしを学ぶ〜

コラム:暮らしを楽しむ

日本のあちこちで別れと出会いが行き交う春。卒業や入学、就職のお祝い、異動や転職のはなむけを贈る機会も多いのではないでしょうか。そのときに活躍するのが、のし袋やぽち袋です。そのルーツともいわれるのが「折形」。いわば日本古来のラッピングであり、日本人はさまざまなものを心とともに包んできました。「おめでとう」「ありがとう」「がんばって!」——いろいろなあいさつを「折形」で表現して、あなたの心を相手に届けましょう。

【座学編】折形を知る

折形は「おりがた」あるいは「おりかた」と読みます。先人たちは、暮らしのなかのさまざまなシーンで、お金やものを和紙で包み、水引を掛け、贈りものをしてきました。相手を思う気持ちを託した折形は、日本の伝統的なラッピングともいえるでしょう。しかし、単なる包装の方法や技術ではありません。では、折形とはいったい何なのでしょうか。

折形の歴史

折形とは、もとは武家の礼法のひとつであり、室町時代に確立したとされています。当時は、将軍家を中心に門外不出で伝承されていたそうです。戦乱の世が終わり、泰平の江戸時代になると、折形は寺子屋などでも教えられるようになり、だんだんと庶民に普及していきます。このころ、礼法としての折形から派生して、和紙を折って形を楽しむ「遊戯折形」が生まれました。これが、いまに伝わる「おりがみ」の原型です。

さらに時代は進み、明治時代、義務教育では作法の一環として折形を学んだといいます。その頃、高等女学校の教科書には20〜30種類ほどの折形が掲載されていたのだとか。昭和初期までは生活のなかに折形が当たり前に存在していたようです。戦後の教育改革により、折形は学校の授業から消え、次第に生活からも姿を消し、いつしか贈答品は包装から発送まですべて百貨店に任せるスタイルに。同じころ、祝儀袋など、いわば既成の折形も登場します。

いま、本来の折形はもはや身近なものではなくなりました。しかし、暮らしのなかには折形が伝えてきた心、折形から派生したものは残っています。

折形の基本

折形の基本は、贈りものを「和紙」で包み、「水引」で結ぶというもの。和紙を使うことこそ、武家の礼法の名残といえるでしょう。天皇をいただく公家の世界では、「絹の布」で包み、「絹の紐」で結ぶそうです。

折形には、最上級の礼を示す「真」、それよりくだけた「行」、ちょっとした心づかいを示す「草」という3つの格があります。その格と慶弔によって、和紙の素材や色、包みの形などが定められているといい、格が上がるほど、和紙の折り方が複雑になり、水引の本数が多くなるそうです。

現代の折形

伝統的な折形の格を現代に当てはめてみましょう。「真」は、フォーマルな結婚祝い、上司へのお中元やお歳暮などになるでしょうか。「行」は、親友など気のおけない相手への誕生日祝い、出産祝い、新築祝いなど、「草」は、同僚やご近所さんにお世話になったお礼やお土産のお菓子といったところでしょう。新生活が始まる時期なら、親族の入学祝いや就職祝いが「真」あるいは「行」、異動のあいさつに手渡すお菓子やハンカチは「草」と言えるかもしれません。こうしてみると、普段の暮らしのなかに、折形の精神は残っていることがわかります。

【実践編】折形に託す

折形の成り立ちと歴史、現代にも受け継がれている心がわかったところで、折形を実践してみましょう。お祝いやお礼に使える折形4種を紹介します。自分の手を動かし、贈りものを和紙で包むことで、折形のエッセンスにふれられるはずです。正式な折形を学びたくなったら、しかるべきレッスンを受けてみるのもよいでしょう。

【金子包み】おめでとうの心を表す

金子(きんす)包みとは、その名のごとく、お金を包むときに使います。ここでは、「略式紙幣包み」と「たとう包み」の2種の折形に、おめでとうの心を託してみましょう。

<略式紙幣包み>

  1. 正方形の和紙を三角に折る
  2. 三角の底辺に合わせて、三つ折りにした紙幣をはさみこむ
  3. 三角の頂点を底辺の中央に合わせて折る
  4. 左右の角を内側に折る
  5. 右の折り返し部分に左の角を差し込む

<たとう包み>

  1. 長方形の和紙を縦に置き(短辺を天地にする)、中央に中包み(★)に入れた紙幣を置く
  2. 中包みに合わせて、左の長辺を内側に折り、同様に右の長辺も折る
  3. 中包みに合わせて、上部を内側に折り、折った部分に被せるように下部を折る
  4. 水引を花結び(蝶結び)にする ※結婚祝いは結び切り

★中包みの作り方★

  1. 長方形の和紙を縦に置く
  2. 右下の角を軸にして右に傾け、下の短辺と左の長辺が重なるように、左下の角を内側に折り、紙幣をはさみこむ
  3.  紙幣の天地に合わせて、上部と下部を内側に折る
  4.  左の辺を内側に折り、そこに右の角を重ねる

【袱紗包み】ありがとうの心を贈る

袱紗(ふくさ)包みとは、袱紗を贈るときの折形なのだとか。ハンカチなどの布ものを包み、はなむけや異動のあいさつに添えてみてはいかがでしょうか。また、新天地でのあいさつに手ぬぐいを包んで贈れば、「よろしく」の心を伝えられそうです。

<袱紗包み>

  1. 正方形の和紙を角が天地にくるように置く
  2. 和紙の中心に天地の角を合わせて折る
  3. 左右の角を内側に折り、中心で折り返す
  4. 一度開いて、ハンカチなどを入れて、再び折る
  5. 水引を花結び(蝶結び)にする

【万葉包み】いろいろな心を包みこむ

万葉包みは、箱や筒状のものなどを包む折形。菓子折りやワインボトルはもちろん、本やタオルなど、じつにさまざまなものを包めそうです。「おめでとう」「ありがとう」「がんばって!」「よろしく」……いろいろな心を万葉包みに託してみましょう。ここでは、万葉包みの真・行・草を紹介します。

<万葉包み・草>

万葉包みのうち、最もカジュアルな「草」。ちょっとしたあいさつのとき、気軽に使えそうです。

  1. 長方形の和紙を横に置き(長辺を天地にする)、中央に贈りものを置く
  2. 贈りものの形に沿って、左側を折る
  3. 同様に右側を折り、端を折り返してひだをつける
  4. 水引を片輪結び、花結び(蝶結び)などにする

<万葉包み・行>

万葉包みのうち、草よりも格の上がる「行」は折り返しのひだが増えます。カジュアルすぎず、フォーマルすぎないので、春のお祝いやはなむけに活躍しそうです。

  1. 長方形の和紙を横に置き(長辺を天地にする)、中央に贈りものを置く
  2. 贈りものの形に沿って、左側を折り、端を折り返す
  3. 同様に右側を折り、端を折り返す
  4. 左右の折り返し部分が少し重なるように整える
  5. 水引を片輪結び、花結び(蝶結び)などにする

<万葉包み・真>

万葉包みのうち、最もフォーマルな「真」。行よりもさらに折り返しのひだが増えます。最上級の敬意や感謝をこめて、包んでみましょう。

  1. 長方形の和紙を横に置き(長辺を天地にする)、中央に贈りものを置く
  2. 贈りものの形に沿って、左側を折る
  3. 同様に右側を折り、端を折り返す
  4. 折り返した部分を折り返し、さらにもう一度、折り返す(計3回折り返す)
  5. 水引を片輪結び、花結び(蝶結び)などにする

相手を思う心を「折形」に託してみる

折形とは、日本古来の礼法であり、相手を思う心を形にしたもの。昭和初期までは学校の授業でも習ったといい、人々の生活に根づいていたようです。いつしか贈答品は百貨店で購入し、包装、発送してもらうものとなり、折形は暮らしのなかですっかり影を潜めてしまいました。しかし、その心は残っています。昔もいまも、贈りものには贈り手のまごころがこめられているのですから。お祝いやはなむけの増える春だから、おめでとうやありがとうの心を折形に託してみませんか。

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