年中行事と行事食〜行事食に込められた意味と旬食材を味わう〜
新年を迎え、おせち料理やお雑煮、七草がゆ、鏡開きのおしるこ……と、伝統的な料理が食卓に並ぶ日が続きました。食生活がすっかり欧米化した現在でも、季節の節目には「行事食」と呼ばれる料理を食べる習慣は根づいています。今回は、四季折々の「行事食」と海外の「行事食」を俯瞰しながら、日本の食文化を再確認してみましょう。
行事食とは何か
行事食とは、読んで字のごとく「行事」のときに作って食べる「食事」を指します。では、遠足や運動会のお弁当、あるいはクリスマスケーキも、行事食と言えるのでしょうか。行事食とは何か、そこにはどのような意味が込められているのか、そして、どのような良さがあるのかを確認してみましょう。
行事食と、その意味
本来の行事食は、お祝いの日や季節を区分する二十四節気にちなんだ行事に食べる特別な料理のこと。つまり、ハレの日に食べる伝統食をいいます。ということは、遠足や運動会のお弁当はちょっと違いますよね。すぐに思い浮かぶのは、お正月のおせち料理やお雑煮、お彼岸のぼた餅・おはぎ、土用の丑の日のうなぎ、冬至のかぼちゃなどでしょうか。このように、行事と料理の組み合わせはよく知られています。
ただ、行事食に込められた意味は、あまり伝承されていないかもしれません。たとえば、おせち料理の黒豆には「まめに働き、まめに(健康に、達者に)暮らせるように」、数の子はたくさんの卵から「子孫繁栄」、海老は背が曲がっていることから「長寿」を表すなど、無病息災や家内安全の願いが込められています。行事食にはそれぞれに意味があり、その背景を知ると、よりいっそう味わい深く感じられるでしょう。
行事食の良いところ
行事食の良いところは、旬の食材や地元の食材を味わえること。露地栽培の農作物を旬に食べる「旬産旬消(しゅんさんしゅんしょう)」、地場産の食材を地元で食べる「地産地消」は、サスティナブルな食生活の基本です。また、生活のなかで日本の食文化を知り、伝承していけるのも行事食の良さでしょう。そして何より、普段は口にしない料理を味わえるのは、楽しいものです。
行事食で見る日本の一年
それでは、新春から年の暮れまでに日本の食卓を彩る、主な行事食を見ていきましょう。
年中行事と行事食
年中行事とは、神々を祭る行事や宮中行事から民間に広がり、伝承されてきたものです。季節ごとにさまざまな行事があり、行事ごとにさまざまな料理があります。
【新年】
行事 | 日にち | 行事食 | 行事食の意味 |
正月 | 1月1日 | おせち料理、雑煮 | おせち料理は神様へのお供え、雑煮は長寿を祝うもの |
七草 | 1月7日 | 七草かゆ | 邪気と万病を払う |
鏡開き | 1月11日 | おしるこ | 家族の円満と無病息災を願う |
節分 | 2月3日ごろ | 炒り豆 | 鬼(疫病)を払い、無病息災を願う ※福を逃さないように年の数だけ豆を食べる |
【春】
行事 | 日にち | 行事食 | 行事食の意味 |
桃の節句 | 3月3日 | 蛤の吸い物 | ひな祭りに磯遊びをして蛤を神に供えた名残ともいわれる。夫婦の縁に恵まれるように願う |
春彼岸 | 3月21日ごろ | ぼた餅 | 餅は五穀豊穣の願い、小豆は魔除け |
端午の節句 | 5月5日 | 柏餅 | 柏の葉にちなみ、跡継ぎが絶えない |
【夏】
行事 | 日にち | 行事食 | 行事食の意味 |
七夕 | 7月7日 | そうめん | 無病息災を願う |
盂蘭盆会 | 7月13〜16日 | 精進料理 | 殺生をせず、心身を清める |
土用丑の日 | 7月下旬 | 鰻 | 夏バテ防止 |
【秋】
行事 | 日にち | 行事食 | 行事食の意味 |
秋彼岸 | 9月23日ごろ | おはぎ | 餅は五穀豊穣の願い、小豆は魔除け |
十五夜 | 9月〜10月上旬 (旧暦8月15日) | 月見団子、里芋 | 月に見立て、先祖供養と五穀豊穣を祈る |
十三夜 | 10月中旬〜下旬 (旧暦9月13日) | 月見団子、栗 | 月に見立て、先祖供養と五穀豊穣を祈る |
七五三 | 11月15日 | 赤飯、千歳飴 | 赤飯は邪気を払う、千歳飴は長寿の願い |
【冬】
行事 | 日にち | 行事食 | 行事食の意味 |
冬至 | 12月22日ごろ | かぼちゃ | かぼちゃの黄色は魔除けの色、無病息災を願う |
大晦日 | 12月31日 | 年越しそば | 長寿と金運を祈る |
行事食と地産地消
行事食のなかでもとくに地域性が出るのは、お雑煮です。傾向としては、東日本に角餅(焼く)+すまし汁、西日本に丸餅(煮る)+すまし汁が多いでしょうか。東京は、しょうゆ味のすまし汁に焼いた角餅、鶏肉、野菜、かまぼこを入れます。京都は、白味噌仕立てで、丸餅、里芋、金時にんじんが入っています。珍しいところでは、島根と鳥取に伝わる小豆雑煮、香川のあんもち雑煮、長崎の貝雑煮、新潟の越後雑煮をルーツとする北海道の鮭・いくらの雑煮などがあり、じつに多彩です。
また、特定の地域に伝わる行事食もあります。いまや全国区となった恵方巻きも、もとは関西地方の風習でした。半夏生(毎年7月2日ごろ)に豊作を祈り、関西ではタコを、関東では小麦餅を食べる習慣が伝わっています。
行事食でめぐる世界の食卓
行事食、つまりハレの日の伝統的な料理は世界中にあります。各地の行事食を見てみましょう。
世界の行事食
日本の行事食と同じように、世界の行事食にも、その土地らしい食材が使われ、健康や幸福の願いが込められています。
たとえば、中国の「水餃子」。その形が昔のお金に似ていて縁起がいいと、旧正月に食べられています。同じく新年を祝う、タイのソンクラーン(水かけ祭り)では、宮廷料理「カオチェー」が用意されます。ロシアの「ブリヌイ」は、たっぷりのバターで焼くクレープのような料理。丸い形は太陽を象徴しているといわれ、マースレニツァ(バター祭り、春を祝う祭り)に食べる習慣があります。
ペルーの首都リマにある、エル・セニョール・デ・ロス・ミラグロス(奇跡のキリスト)。毎年10月、この壁画を祝うお祭りがあり、このときに食べるのが伝統菓子トゥロン・デ・ドニャ・ペパです。キリスト教の行事でいうと、アメリカでは感謝祭に七面鳥、フィンランドではクリスマスにジンジャークッキーを食べます。
行事食に込められた意味と、旬産旬消・地産地消の食材を味わう
四季の移ろいのなか、ハレの日に食べられてきた行事食。そこには、家族や親しい人たちの健康と幸福を願う意味が込められています。また、その旬産旬消・地産地消のサスティナブルな食文化でもあります。今年は、年中行事ごとに行事食を囲み、その意味と地場産の旬食材をじっくり味わってみませんか。
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