ご先祖さまに感謝を捧げるだけではないの?〜「お彼岸-秋-」の基礎知識〜

お彼岸の時期はスーパーやデパ地下などにも「おはぎ」が並んだり、テレビなどでお墓参りの様子が紹介されたりと、世間にはお彼岸ムードが漂います。お彼岸もお盆と同様に、「お墓参りをしてご先祖さまを供養する」と多くの人に認識されています。しかし、本来の意味や由来、具体的に何をする日なのかをご存じでしょうか? 今回は、知っているようで知らないお彼岸のお話です。きっと新たな世界が広がるはず。さっそくのぞいてみましょう!

そもそも、お彼岸ってどういう日?

お彼岸は春(3月)と秋(9月)の2回あります。今回は、「秋彼岸」について解説しましょう。春と秋という季節の違いはあっても、基本的なお彼岸の意味は同じです。間近に迫った9月のお彼岸に備えて、今秋に基本を押さえておけば、来春からはスムーズに事が運べることでしょう。まずは、お彼岸の「期間」と「由来」について見ていきましょう。

お彼岸はいつ?お彼岸の期間とは

秋のお彼岸は、「秋分の日」を中日として前後3日間、計7日間の期間を指します。なぜ、毎年のことなのに、このような漠然とした言い方になってしまうのかというと、じつは「秋分の日」が毎年同じ日、同じ曜日になるとは限らないからです。

国民の祝日について定めている『国民の祝日に関する法律』には、日付の代わりに天文学上の言葉である「秋分日」と記されています。では、秋分日とはどんな日なのか、というと……「太陽が「秋分点」を通る瞬間を含む日」とされており、この日は昼と夜の長さがほぼ同じになります。

秋分点というのは、天球上における太陽の通り道「黄道」と、地球の赤道を天まで延長した「天の赤道」がちょうど交わる点のこと。「黄道」と「天の赤道」は互いがおよそ23.4度で交差しているため、あともう一点交わる箇所があります。それが「春分の日」に関わる「春分点」です。ただ、そのような基準となる点があっても、太陽は毎年同じ日の同じ時間にそこを通過するわけではありません。それが、秋分の日や春分の日が毎年同じ日になるとは限らない所以です。秋分日や春分日は「国立天文台」が複雑な計算式を用いて算出し、その情報を元に秋分の日や春分の日が閣議決定されます。

ちなみに、2022年秋のお彼岸は、9月23日(金)の秋分の日を中日として、9月20日(火)から9月26日(月)までの7日間となっています。

〜お彼岸豆知識 其の1〜

お彼岸の初日は「彼岸入り」、真ん中の秋分の日が「中日」、最終日を「彼岸明け」といいます。

語源はサンスクリット語の「パーラミータ」

「彼岸」という言葉は、サンスクリット語の「パーラミータ」に由来します。パーラミータを音写すると「波羅蜜多(はらみた)」、漢訳すると「到彼岸(とうひがん)」となり、「彼の岸(向こう岸)へ渡る」という意味になります。

彼の岸(向こう岸)というのは、仏さまの住む浄土の世界。すなわち「悟りの世界」です。対して、いま私たちがいる欲や煩悩にまみれたこの世界は、仏教用語で「此岸(しがん)=こちらの岸」といいます。

彼岸は、噛み砕いていえば「欲や煩悩に満ちた現世を脱し、悟りの境地へ達すること」で、そのために「六波羅蜜」という仏道修行に励もうという期間なのです。では、なぜこの時期になったのでしょうか。

それは、仏教の「西方浄土」という考え方が関係しています。仏さまの住む浄土の世界は西方の遥か彼方にあるため(西方浄土)、太陽が真東から出て真西に沈むお彼岸の時期は、浄土への道しるべができると考えられているのです。また、昼夜がほぼ等しくなることから、浄土との距離が1年のうちで最も近づき、思いが通じやすくなるともいわれています。

このような仏教の思想と、日本古来の「自然やご先祖さまを崇拝する」という慣習が結びつき、お彼岸は「ご先祖さまに感謝を捧げ、仏教の教えに従い六波羅蜜を実践する期間」となったのです。

仏教国では、お彼岸は伝統的な行事として根付いていそうなイメージがありますが、じつは日本独自の風習で、中国やタイなど他の仏教国にはありません。

<六波羅蜜の6つの修行>

布施:見返りを求めず、施しを行うこと。

持戒:本分をわきまえ、規律を守って生活すること。

忍辱:どのような辱めを受けても、耐え忍ぶこと。

精進:物事に邁進すること。

禅定:平静な心を持ち続けること。

智慧:真理を見極める、悟りを完成させること。

〜お彼岸豆知識 其の2〜

「彼岸」と「此岸」の間を流れる川のことを「三途の川」といいます。

お彼岸には何をする?

お彼岸にすることといえば、真っ先に思い浮かぶのが「お墓参り」ですが、やるべきことは他にもあります。さっそく、見ていきましょう。

仏壇・仏具のお掃除

普段なかなか手が回らない箇所を重点的に掃除するのがポイントです。仏道では、掃除は心を磨く修行とされています。六波羅蜜の実践にもつながるので、無心に行いましょう。

<ワンポイントアドバイス>

仏壇仏具のお掃除は、基本的に水や洗剤を使用しないこと。傷みの原因になります。ただし、真鍮製などの仏具には、磨き粉などを使うこともあります。

お墓の掃除とお参り

コロナ禍の今は、難しいところがありますが、できれば家族そろってお墓参りしたいものです。ここでは、お墓参りに行くタイミング・持ち物・お参りの手順を紹介します。

  • お墓参りに行くタイミング
    お墓参りをする時間に明確な決まりなどはなく、常識の範囲内であればいつ行っても構わないとされています。ただ、昔ながらの常識で考えるならば「午前中」に行くのが好ましいでしょう。
  • お参りに必要な持ち物
    掃除用具として、手桶、柄杓、タオルもしくは雑巾(新品を用意)、歯ブラシ(新品を用意)、ほうき、ちりとり、ゴミ袋など。手桶・柄杓は貸し出ししている施設もあるので、借りられるかどうかを事前に確認するとよいでしょう。お参り用品には、ろうそく、ライター、お線香、花、ハサミ(花の長さを揃えるため)、食べ物・飲み物、半紙(お供え物の下に敷くため)、数珠などが挙げられます。

*お参りの手順

1.お墓の掃除をする

2.水や食べ物・飲み物などを墓前にお供えし、花を生ける

3.お線香を供えてお参りする

4.後片付けをする

<ワンポイントアドバイス>

仏教では人間の息は不浄とされています。ろうそくやお線香の火を消すときは、手であおぐようにすること。絶対に息を吹きかけてはいけません。

お仏壇のお参り

お仏壇のお参りもいつも以上に感謝を込めて行いましょう。お供え物は、季節の花や果物、おはぎ、彼岸団子などが一般的ですが、大切なのは気持ちです。故人が生前好きだったものをお供えするなど、形式にとらわれすぎず柔軟に考えてみるといいかもしれません。

〜お彼岸豆知識 其の3〜

秋のお彼岸には「おはぎ」を、春には「ぼたもち」をお供えしますが、基本的には同じ食べ物です。名前は、それぞれの季節に咲く花にちなんでつけられました。

おはぎ→御萩(萩の花)

ぼたもち→牡丹餅(牡丹の花)

他家へのお参り

お彼岸には、親類や友人・知人宅のお仏壇をお参りする機会もあるかもしれません。その際には、手土産を持参するケースも多いのではないでしょうか。ここでは、好ましい手土産と相場について紹介します。

手土産は、進物線香や菓子折り(日持ちするもの)などの消えものがよいとされていますが、場合によっては現金(香典)を包むことも。相場は相手との関係性によっても異なりますが、一般的には以下の範囲になるようです。

通常のお彼岸:3,000円〜5,000円

初彼岸:5,000円〜10,000円

<ワンポイントアドバイス>

手土産(お供え物)には「掛け紙」を付けてもらうようにしましょう。使用する掛け紙は、黄白や黒白の結び切りあわび結びの水引で「熨斗」のないものが一般的です。表書きには、「御供」と記すと良いでしょう。ただし、地域によって独自の風習があるため、事前に確認しておくと安心です。

寺院主催の「彼岸会」

各寺院では「彼岸会(ひがんえ)」と呼ばれる法要が執り行われる場合があります。参加する際には、僧侶へのお礼として「お布施」を持参するのが基本。寺院によって異なりますが、一般的なお布施の相場は以下の通りです。

彼岸会(寺院での法要):3,000円〜10,000円

個別法要(自宅に僧侶を招く場合):30,000円〜50,000円+お車代5,000円〜10,000円

<ワンポイントアドバイス>

お布施をお渡しするまでは、袱紗(ふくさ)に包んでおきましょう。

お彼岸にしてはいけないことってあるの?

お彼岸の時期に引っ越しをしたり、結婚式を挙げたりするのはどうなんだろう?と悩む人は少なくありません。結論からいうと、お彼岸にしてはいけないことというのは特にありません。なぜなら、お彼岸はご先祖さまを供養し、六波羅蜜の実践を心がけたい期間であって、身を慎まなければならないわけではないからです。

〜お彼岸豆知識 其の4〜

お彼岸とお盆は、同じような行事と捉えられがちですが、似て非なるもの。大きな違いは「ご先祖さまが帰ってくるかどうか」です。お盆はご先祖さまが帰ってくるという考え方ですが、お彼岸はそうではありません。

今年のお彼岸は、ご先祖さまに感謝を捧げながら、六波羅蜜の実践を

お彼岸は、「家族揃ってお墓参りをする」という行事としてのイメージが先行しがちですが、本来は仏教における修行の一つ「六波羅蜜」を実践しながら、悟りの世界を目指そうという期間でもあるのです。今年の秋彼岸は、ご先祖さまへ感謝の気持ちを捧げるだけでなく、日頃の自身の行いを見つめ直し、六波羅蜜を実践してみる機会にしてみてはいかがでしょうか。

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